ai_math_runningのブログ

最近はAI関係の記事が多い予定です。一応G検定持ってる程度の知識はあります。

腰高のフォームで走る(ランニング理論入門)

ランニングでは、腰高のフォームで走るのが良いと言われていますね。
逆に、悪いフォームの代表例として、「腰の落ちた走り方」なんて言われます。
では、腰高のフォームって、どういうランニングフォームなんでしょう?

腰高になる条件

腰高とは、腰が高い位置に常に保たれた状態を言うと思います。腰の位置は、だいたい身体の重心の位置と同じと考えられます。なので、ランニングでは、重心が一番低くなる場面が「パワーポジション」なので、パワーポジションで腰が・重心が高い位置にあれば、それが「腰高のフォーム」と言えると思います。

つまり、「腰高のフォーム」は、パワーポジションの場面がどうか、だけ考えれば良いのです。パワーポジションがランニングの様々な部分で重要だ、というのが理解して頂けると思います。

では、パワーポジションでの重心位置は、どうやって決まるでしょうか。
それは、2つ条件があります。

  1. パワーポジションで重心のなるべく真下で接地している事
  2. パワーポジションで接地している脚がなるべく伸びている事

1つ目は、これまでも出てきた話ですね。パワーポジションでの接地位置が重心からずれていると、その分脚が斜めになって、垂直方向の長さは短くなってしまいます。なので、重心位置を高く保つためにも、脚は真下に伸びていて欲しい訳ですね。
2つ目は、脚が伸びている状態、特に膝関節がなるべく伸びている状態が、脚が長くなるため重心位置が高くなるという訳です。
といっても、膝がピンと伸びている必要はありません。逆にピンと伸びすぎた状態は「過伸展」といって、あまり望ましい状態ではなくて、膝は少し「遊びがある」程度に曲がっている方が良いです。(膝の過伸展については、いずれ原稿を書く予定です。)また、着地の衝撃を受け止めるために、膝を曲げて吸収し、膝を伸ばしてジャンプする必要があるので、多少は膝は曲がります。ただ、あまり多く曲げすぎると良くないのです。
それは、「膝だけで着地の衝撃を受け止め、膝だけでジャンプする」事になってしまうからです。マラソンの長丁場では、膝をメインに使うのではなく、全身のバネで衝撃を受け止め跳躍するのが望ましく、膝を曲げるのが最小限にしたいのです。

腰高のフォームで走ると速くなるのではなく良いフォームで走ると結果的に腰高になる

という事で、腰高になる条件は理解して頂けたかと思いますが、それを踏まえて腰高で走るトレーニングをする必要はありません。
というのは、腰高で走るためには、パワーポジションでの接地位置をなるべく真下にする、とか、全身のバネを使う、といった事ができれば自然と成り立つものだからです。
つまり、小見出しに書いた通り、良いフォームで走るように練習して身についたならば、自然と腰高で走れるようになっている、というのが望ましい姿なので、そのつもりでトレーニングしてみてください。

おまけ

でも、最近では、「腰高のフォームなんて良くない、逆に腰低のフォームが良い」なんてキテレツな主張をしている人もいます。(某漫画家さん?)
ただ、この原稿を読んでもらうと分かる通り、腰高のフォームにはちゃんとした根拠があります。この条件を見れば、「腰低のフォーム」のためには、接地位置が重心から大きくズレるか、膝を大きく曲げる必要があると分かります。前者は現在のランニング理論では速く走るのに必須と言われていますし、後者をやるには膝に負担がかかりすぎます。なので、そんなキテレツな主張は話半分に聞いて、王道の腰高のフォームを目指してもらえたら、と思います。
ただし、「腰低のフォーム」に全く理がない訳ではありません。これはまたずっと先に書く予定ですが、パワーポジションの「後の場面」で膝を折るようにするとスピードを出せるという技術があり、その時の身体感覚が「腰が落ちる」ような感覚があったりします(実際には落ちてません、パワーポジションの後ですので)。これは非常に難しい技術なので、まずは他の技術が出来てから取り組めば良い話ではないかな、と思います。

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歩幅を広げようとしない・オーバーストライドの問題(ランニング理論入門)

パワーポジションの説明をしましたので、パワーポジションの概念を使ってランニングの色々な問題を考えていきたいと思います。
まずは、オーバーストライドの問題。最近、良く言われるようになった言葉ですが、ランニングの理論を知らない人には盲点となる事のように思います。

オーバーストライドとは何か

オーバーストライドとは、パワーポジションの場面で接地している足が重心よりも前にある状態を言います。
もっとも、重心の完全に真下に接地するのは難しく、誰もが多少はオーバーストライドになっていたりしますが、その程度がひどいものをオーバーストライドと言うと思ってください。
ちなみに、プロレベルだと、その精度は数センチレベルが要求されるらしく、実業団駅伝の解説で「あの選手は2センチほどオーバーストライドなのでスピードに乗っていけていない」って聞いた事があります。そのレベルのオーバーストライドが分かるというのも凄い話ですが。市民ランナーレベルでは、そこまでは要求されないですが、靴半足分レベルの精度があると、かなりスピードに乗って走れると思います。

歩幅を広げようとする意識

ランニングのスピードというのは、数学的に考えると、「ピッチ かける ストライド」で決まります。私もコーチの真似事を始めた頃は、良くこのように説明していました。でも、最近はこの説明をあえてしないようにしています。
というのは、この公式を頭に置いていると、どうしても歩幅・ストライドを広げようとしてしまうんです。ピッチを上げるのは実は難しかったりしますし(人によって走りやすいリズムがあるので)、あと、ピッチを上げられたとしても大きくは上げられないので、スピードの改善にはそれほど役立たないからです。なので、スピードの改善は、専らストライドの向上によるのですが、歩幅を広げようという意識を持ちすぎると、オーバーストライドになってしまいがちなんです。
というのは、歩幅を広げようとすると、どうしても、足を前に着こうとしてしまうのです。着地の場面で足を前に着こうとすると、重心よりかなり前で着地してしまい、そうなると、重心が落ち切るパワーポジションまでに接地位置が真下にきてくれないのです。
つまり、歩幅を広げようとする意識は、走りにおいてはマイナスに働く事が多いです。逆に歩幅を狭めようとする方が、オーバーストライドの改善となって良い事の方が多いです。
(実際に、オーバーストライドの改善ドリルとしてミニハードルを使ったりします。ミニハードルを使って歩幅を制限する事で重心近くに着地する事になり、パワーポジションで重心が接地位置の真上にくる感覚を覚えやすいんです。)

ストライドを決めるもの

足を前の方に着けば歩幅が伸びるというのは、ランニング初心者が誤解しがちな事だったりします。足を前の方に着いても、それによってオーバーストライドでブレーキがかかると、次の一歩が前にいかなくなってしまいます。ランニングは足が地面に着いている場面と身体が地面から浮いている場面がありますが、身体が浮いている場面でどれだけ前にいけるかがストライドを決めているのです。
(身体が浮いている時に前に進んでいる、というのを、初心者は軽視しがちのように思います。「背が低く足が短いからストライドを伸ばせない(からピッチ走法で)」というのも似たような誤解で、身体が浮いている時に前に進めば身長も足の短さも関係ないのです。)

という事で、逆説的ですが、「歩幅を狭めて着地する意識によって、結果的にストライドは伸びる」となります。なので、ストライドを広げようとしないようにしましょう。

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ランニングのパワーポジション(ランニング理論入門)

パワーポジションってご存知ですか?
なんか、すごいカッコイイ言葉ですよね。それだけで走るのが速くなりそうです。
でも、別に「これができれば良い」みたいな動きではなく、誰のどんな走りに対しても存在しているポジションなんです。
で、それが、ランニングを考える上で、最も重要なポイントなんです

パワーポジションとは

パワーポジションとは何か。一般には「もっとも力が出やすい位置や姿勢」のことを言います。色々なスポーツで、そのスポーツなりのパワーポジションがあると思います。

ランニングにおけるパワーポジションとは

では、ランニングのパワーポジションとは、どういうポジションなのでしょう?
それは、走りの動きを物理学的に考えると理解しやすいです。
(走りを物理学的に詳しく考える原稿は、いずれ書こうと思っています。)

ランニングでは、身体が地面から浮いている場面と、足が地面に付いている場面があります。身体が地面から浮いている場面は、物理学的に考えると「放物運動」になります。放物線を描く動き、ホームランボールの軌跡と同じ動きになり、ニュートン方程式で簡単に解析できます。
一方、足が地面についている場面では、上下方向ではバネ運動と捉えて良いと思います。足が地面に付いていても、身体の重心はしばらくは下へと沈んでいき、ある程度まで沈んだら止まり、そこからは跳ね返って重心が上がっていくようになり、ある程度上がれば足が地面から離れて放物運動になります。
つまり、足が地面からついている場面では、バネが縮んでいくように重心が下がり、一番下がったら、バネが復元されて重心が上がっていきます。この時の重心が一番下がった場面、それがパワーポジションになります。

パワーポジションの何が重要なのか

それで、パワーポジションにおいて重要なのは、重心の位置と接地位置の関係です。
理想的には、重心が接地位置の真上に位置している事です。でも、実際にはそうなっていなくて、重心が接地位置より後ろにあります。これをどれだけ真上に近づける事ができるか、が、ランニングにおいては決定的に重要です。
今まで色々と書いてきましたが、実はパワーポジションでの挙動でランニングのほとんどが決まるといっても過言でないくらい、重要なポイントなんです。

パワーポジションとは、「もっとも力が出やすい位置や姿勢」のことでした。ランニングの場合は重心が最も沈み込んだ場面で、それはバネが最も縮んだ時でした。バネは最も伸びた時か縮んだ時に、一番力が大きくなっています。その時が一番強い力で地面を押している場面で、一番強く地面からの力を受けている場面です。
その時に力の向きが、どうなっているか、が重要で、できれば真っ直ぐ下/上を向いていてほしいんです。

厚底シューズのメカニズム(パワーポジションで説明する事例)

パワーポジションがどういうものかは分かって頂けたかな、と思います。
で、このパワーポジションを踏まえると、ランニングについての様々は事が説明できるようになるのです。
それは、おいおい書いていこうと思っていますが、ここでは一つ、印象的な事例を挙げます。それは厚底シューズです。

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近藤選手は最近引退されましたが、高い知性とトップレベルの競技力を備えた稀有な選手でした。その近藤選手が厚底シューズのメカニズムについて考察したのが上記記事です。
詳細は、近藤選手の記事を読んで頂きたいのですが、一言で言うと「厚底シューズはフォーム矯正シューズだ」という事です。
曰く、厚底シューズによって、「上から下に力を伝えて、後ろに蹴らない走り」になる、という事です。

それを、私なりに説明すると、こういう事だと思います。
厚底シューズのカーボンフレームは、真っ直ぐ真下に押してあげないとバネを縮める事ができないようになっている。よって、真っ直ぐ真下に押す、つまりパワーポジションで重心が足の真上にあり身体にかかる重力が真っ直ぐシューズにかかる状態で「シューズの恩恵を受けられる」ので、そういうランニングフォームに矯正されていく、それが厚底シューズによって速くなるメカニズムなんだと思います。
良く、厚底シューズの助力が、とか言われていますが、そんな助力なんてごくごくわずかなものです。だって、人間の体重って50キロくらい(人によってはそれ以上)あるんですよ。それが、靴底に入っているバネ程度で、いったいどれくらい跳ね飛ばす事ができるというのでしょうか。
でも、そのわずかな力でも跳ね返りを感じて走れば、それが結果的にフォームを矯正して効率的な走り方に自動的になってしまう。それが厚底シューズの速くなるメカニズムなんです。

さて、このようにパワーポジションを踏まえると、ランニングについての様々な事が理解できるようになります。今後、それについても色々と書いていこうと思っています。

ランニングのプロと素人の境目:シザーズ(ランニング理論入門)

今回は、ランニングの動きの中で最も「プロと素人が違う」動き、シザーズ
について書いていきます。
プロと素人の違いというか、少なくとも陸上専門の人間と、陸上専門のトレーニングをしていない人間を分けるポイントと言えるように思います。
恐らく、多くの陸上部では、シザーズのトレーニングを行っているはずです。一方、陸上の専門ではない人は、全く知らない動きではないかと思います。
なので、これができると、それだけで陸上のプロっぽく見えます。

シザーズの動き

シザーズは、遊脚の膝が軸足を追い越す動きの事を言います。ポイントは、軸足(例えば左足)が地面に付くに、遊脚(例えば右足)の膝が前に出ている事です。

図で描くとこんな感じです。

シザーズができていない「普通のランナー」は、片足(黒い線)が着地した時には、もう片方の脚(赤い線)は後ろにあります。この状況を、陸上では「足が後ろに流れている」と表現して、走りが遅くなる要因としています。一方、シザーズのできている「速いランナー」は、片足(黒い線)が着地した時に、もう片方の足(赤い線)の膝が軸足より前に出ています。これは、黒い線の方の脚がおろされるのと入れ替わるように赤い線の方の膝までの脚が前に出ていって、両方の足で挟むようになるのです。(だから「はさみ」で「シザーズ」になるんです。)
ポイントは、膝から先、足の部分は軸足より後ろにある、膝がしっかり曲がっていて、膝だけ前にある、という事ですね。

これで、シザーズの動き自体は分かってもらえたかな、と思います。

シザーズが速く走るのに有効な理由

この動きができると「陸上専門っぽい」のは分かるとして、どうしてこの動きが速く走るのに有効なのでしょうか。
それは、2つの要因があると思っています。

1つ目は、遊脚を速く前に送る事ができる、という事です。引き付けの稿でも書きましたが、遊脚を早くに前に送る事ができると、余裕を持って、戻しながら着地させる事ができます。それによって、ブレーキをかけない接地が可能になります。

2つ目は、接地するポイントで遊脚側が前に動いていくことになる事で、重心がその分前に移動することになる、というのがあります。脚は身体の中で、それなりの重量を持っていますので、それが前に送られると、その分全体の重心も前に移動する事になります。その事で、接地する足が後ろ向きに地面を押す事になり、その反作用で地面から前向きの力を受け取る事になるのです。

シザーズのドリル

シザーズのドリルですが、これがかなり難しく、コツを掴むまで、しばらくかかるかもしれません。

乗り移りのドリル

足を前後に開いてください。(どちらが前でも良いですが、後で反対側もやってください。)そして、後ろ足に体重をかけて、前足を浮かせてから、前足をおろして付く時に後ろ足を上げて、「後ろ足から前足に乗り移る、飛び移る」動きをやってみてください。
それで、単に乗り移る、飛び移るだけなら、上の図の「普通のランナー」みたいに後ろ足が流れている状態になると思うのですが、そこで、前足に乗り移る瞬間に後ろ足の膝を素早く前に出して、上の図の「速いランナー」みたいになるように練習します。
かなり難しいと思います。コツを掴むまでは、なかなかできないかもしれません。

足の入れ替えドリル

片足で立って、もう一方の足を浮かせます。その時に、膝を前に出すように浮かせます。そして、浮かせた足を下ろして着地する時に、付いていた方の足を入れ替えるように浮かせて膝を前に出します。
ポイントは、浮かせていた足が着地した時にはもう片方の足の膝が上がっていて「入れ替わった体勢」が完成している、という事です。
これもなかなかコツを掴むのが難しいかもしれません。

スキップ

普通にスキップを行うのですが、その足の入れ替えの時にシザーズの動きを行う、というものです。スキップは、片足で飛んだあと、飛んだ方の足で着地し、すぐに足を入れ替えて着地し、着地した足でそのままジャンプして、その足で着地、を繰り返すものですが、その「足の入れ替え」の場面で、前に「飛んでそのまま着地した側の足」の膝を追い越すように前に出すのです。
実は、シザーズのドリルというと、スキップで練習する事が多いのですが、個人的には上記2つの動きができずにスキップでできるようになるのは、かなり難しいのではないかと思います。まずは動きを分解した上2つのドリルで練習してみて、できるようになったら、スキップでもやってみてください。
(で、スキップでできるようになると、走りの中でもその動きができるようになります。)

シザーズを行う上での最重要ポイント

さて、シザーズはコツを掴むまではなかなかやるのが難しい動きだ、と繰り返し書いてきました。
では、その「コツ」を掴むには、どうすれば良いでしょうか。
それは、前の稿で説明した「引き付け」の動きなんです。
引き付けをして、足を折りたたんだ状態にしていると、脚が動かしやすくなり、シザーズもはるかにやりやすくなります。逆に引き付けを行わずにシザーズだけやろうとするのは大変ですし、無理やりにやろうとすると、骨盤が後傾して、ロンブー淳さんのような走り方になってしまうかもしれません。
上の図でも、シザーズができている方の図では遊脚の膝がしっかり曲がって引き付けができた状態になっていると思います。
なので、上の2つ目の「足の入れ替えドリル」も、上げる方の足の膝をしっかり曲げて、膝は前に出しても足の部分は前にいかないようにすると、やりやすいと思います。

上級者向けの引き付けドリル

それをもっとやりやすくするための、上級者向けの引き付けドリルがあります。
今まで説明した、引き付けのドリルは、単に踵をお尻にひっつける(叩く)だけのものだったと思います。それだと、足が後ろを回ってお尻につく形になると思います。
上級者向けの場合は、足を後ろに回さず、真上に引き上げてそのまま踵でお尻をたたくようにします。これまでの引き付けドリルが楽々できるくらい前ももの柔軟性が高くないと、なかなかこのドリルはできないと思います(そういう意味で上級者向けです)。
この上級者向け引き付けドリルは、引き付けの動きとシザーズの動きをワンモーションで行う練習になります。足を後ろに回さず真上に引き上げると、膝が前に出る事になります。なので、足を真っ直ぐ引き付けられれば、引き付けながらシザーズの動きができる、つまり引き付けとシザーズがワンモーションでできるようになります。
現実的に、乗り移りやスキップで足が着く時に遊脚の膝が完全に追い越すには、ワンモーションで引き付けとシザーズができないと無理だと思います。なので、引き付けをたっぷり練習して、是非とも上級者向け引き付けドリルができるようになってください。

おまけ

この記事を書く際に、他のサイトではどんな説明してるんだろうとチェックしてみたところ、なぜか、ことごとく「シザース」と最後が濁らない表記がされていました。ハサミ(scissors、発音記号では米語で[sízɚz]、英語で[sízəz]だそうです)なので、濁って読むと思ってたんですが、何か濁らず読む理由があるのでしょうか。
詳しい人は、教えてください。(強豪校の陸上部出身じゃないので、こういう所が弱いんですよね。)

「引き付け」ドリルの重要性を理解する

昨日、ランニングの足の動きの全体像を書いたので、今日からは、その一つ一つの動きを説明していきます。まずは引き付けから。

「引き付け」ドリル

「引き付け」のドリルのやり方については、前に説明した通りです。要するに膝を深く曲げて踵でお尻をたたくようにする、という事でしたね。
これについて、特に補足する事はありませんが、では、どうしてこういう動きが速く走る上で有効なのでしょうか?

長いものほど動かしにくい

一般に棒でもバットでも、長いものほど振り回すのに力が要ります。短いと、それほど力を入れなくても楽に振り回す事ができます。また、振り子も長いとゆっくり動きますが、短いと速く動きます。
つまり、長いものほど、動かすのに力が必要で、ゆっくりしか動かせない。逆に短いと楽に素早く動かす事ができます。だから、長いものを楽に素早く動かすには、何らかの方法で短くしてあげるとやりやすくなります。

この事から分かる通り、「引き付け」の動きは、長い脚を短く折りたたんで振り回しやすくする役割を果たしています。接地している時は、脚をなるべく長く使いたいので膝を伸ばし脚を長くしています。そして、足が地面から離れた瞬間、素早く引き付けて脚を折りたたむ事で、脚を楽に速く動かす事ができるようになるのです。

脚をなるべく速く前に送ってあげる必要がある

脚を後ろに持っていく場面は、接地しているので膝を伸ばし脚を長くしています。逆に脚を前にもっていく時は、地面から離れているので、引き付けによって足を折りたたんで短くする事が可能です。
(そうせずに脚をすり足のように地面すれすれで前にもっていってるランナーも数多くいます。実は非効率なんですけどね、その走り方は。)
つまり、「引き付け」によって脚が振り回しやすくなる事の効果は、脚を前にもっていく場面で働きます。それがなぜ、効果的なのでしょうか?

これまで何度も、「着地する時は足を戻しながら着地するのが良い」と書いてきました。それをするためには、足を素早く前に送り、接地のために足を降ろしていく時に足が完全に前にないと、「戻しながら着地」する動きにはできないのです。
足が前に送られてない状態で接地すると、足を前に動かしながら接地する事になってしまいます。そうすると、「前からやってくる地面」と足が衝突しながら着地する事になり、ブレーキになったり身体へのダメージになったり、ズッという地面をする音になったりします。速度がゆっくりの時は、その影響は小さいのですが、スピードが上がれば上がるほど、影響は大きくなります。

シザーズが上手くできるようになる

次の稿で紹介する予定のシザーズ、これは、なかなか習得が難しい技術なのですが、「引き付け」がちゃんとできていると、やりやすくなります。
シザーズは、接地する時に遊脚の膝が軸足を追い越す動きなのですが、この時に引き付けができていると、脚を前に送りやすいのでシザーズが楽になるのです。
つまり、引き付けは、シザーズをよりよくやるために必要だ、という事でもあります。

ピッチが上げられる

ピッチというのは、一分間の歩数の事で、走るリズム・テンポの事になります。ピッチを上げるには、脚を素早く動かす必要があります。もちろんピッチは別の要素で決まる部分が大きいのですが(かなり先ですが、追って解説します)、脚の動きがついていかないと速いピッチでは走れないのです。
なので、ハイピッチの人は、脚の動きがどうしても小さくなりがちなのですが、引き付けができると、ある程度大きく動かしても素早く脚を動かせます。つまり円運動で動かせる、という事ですね。
円運動で動かすためには、足を前にもっていく場面で足をある程度高い所を通過させる必要があります。そのためには膝を深く曲げて足を折りたたむ必要があるのです。
つまり、円運動で動かすために、引き付けが必要になる、という事です。
(あと、脚を短くした方が短い周期で動かす事ができる、というのもあります。)

という事で、「引き付け」の効能が、理解できましたでしょうか。是非とも前もものストレッチをたくさんやって、引き付けのドリルをたっぷり行い、無意識でも踵がお尻近くまで上がるようにして、ランニングエコノミーを向上させてもらいたいな、と思います。

ランニングの足の動きを詳解する

前に、「ランニングの時に、足は、自転車を漕ぐように動かすのが良い」という話を書いたのですが、それについて、もう少し詳しく書いていこうと思います。

足の動きは「足が地面から浮いている状態」と「足が地面についている状態」の2つに分けられる

足の動きは、大きく分けると、「足が地面から浮いている/地面についていない 状態」と、「足が地面に付いている/接地している 状態」の2つに分けて考える事ができます。「足が浮いている」時は、足は基本的に自由に動かす事ができますが、「足が接地している」時は、地面についている分、動きに制限がかかります。

もう少し細かくみていきましょう。

足が浮いている時の動き

足が浮いている時の動きも、いくつかの段階に分ける事ができます。

引き付け

前にランニングドリルの稿で紹介した「引き付け」というドリルの動きです。足が地面から離れたら、素早く、この「引き付け」の動作をして足を畳みます。

シザーズ

引き付けをしている間に、もう片方の足が地面へと降りていきます。そこに合わせて膝を前に出す動きを「シザーズ」と言います。(為末さんの本では「切り返し」と書いていました。)片足が地面に付く時に、浮いている方の足の膝が付く足を追い越す動き、前にあった足が戻ってきながら地面に着く時に、もう片方が代わりに前に出る動き、になります。その動きがちょうど「ハサミ」みたい、という事で「シザーズ」です。
この動きがランニングの動きで最重要だ、という話もあります。少なくとも陸上専門かどうか、を分けるポイントのような気がします。
(つまり、これができると専門っぽく見えるって事です。)

振り出し

シザーズで膝を前に出した後、膝から下が遅れて前に出てくるのですが、その時には膝は前に行き切って戻ってくるようになります。そうやって、膝が伸びていきながら足が地面に降りていくようになるのですが、コツとしては、膝から下はブラブラしていて、膝から上が動くのに合わせて惰性で動く感じにする事ですね。
(って実際にやるのは難しいですが。)

接地時の動き

接地時の動きは、細かく分けられる訳じゃないのですが、いくつかポイントがあります。

接地の方法

フォアフット(つま先から順に地面に付いていく)、フラット走法(足裏全体でほぼ同時に地面に付く)、ヒールストライク(踵から順に地面についていく)の3種類あると言われています。

パワーポジション

接地している時も身体は少しずつ下に沈んていきますが、一番沈んだ状態が「パワーポジション」になります。この時に一番強く地面を押していて、一番強く地面から力を受けています。
このパワーポジションがどうなっているか、が、地面からの力のかかり方の多くを決めてしまう、という意味では、最も重要な瞬間と言えるでしょう。
(で、この時に反対の脚・遊脚がシザーズをしている事になります。)

パワーポジションから足が地面から離れるまで

特に名前は付いていないのですが、この場面でどのように地面に力を加えるか、というのも地味に重要です。
ついつい、この場面で地面を蹴ろうとしてしまうのですが、今の理論では、それは無駄な動きで良くないと言われています。
では、どうすれば良いか。また追って記事にします。
(一言で言うと、膝を折ります。)

足の動きとしては、こんな感じになります。
これらを1つ1つ、練習していくのがドリルって事になりますね。
(以前のドリルの記事では、引き付けの部分しか紹介していませんが。「股関節回し」はシザーズの、「ランジウォーク」はパワーポジションの筋肉の使い方の練習にはなっているんですけども。)
これらの動きが合わさって、「自転車を漕ぐような動き」になってくれると万々歳って感じですかね。

今後は、この1つ1つの動きについて、それを練習するドリルと合わせて詳解していきます。

痛いのを我慢して走ったらアカンよ(ランニング理論入門)

いや、周りを見回してみても、結構いるなぁと思って、どこか痛めているのに無理して走ってる人って。
それは止めた方が良いよぉって話です。

ランニング障害を悪化させてしまう

走る時にどこかが痛い状態って、ランニング障害という事だと思います。どこかの関節とか筋肉、腱などが傷んでいる状態って事ですね。
それを我慢したまま走り続けると、そのランニング障害が悪化してしまう、という事ですね。
(まぁ、これは痛みを我慢して走り続けている人も理解しているとは思うんですが、軽くみてるのかもしれないですね。)
ランニング障害を治すには、病院にかかるとか色々治療法はあるでしょうが、とりあえずはランニングは諦めて中止するのが、まず最初にやるべき事でしょう。
(人間には自然治癒力がありますので、しばらく中止すれば回復する事も多々ありますし。)

ランニング依存?

ちょっと前にランニング依存の記事が話題になっていましたよね。

www3.nhk.or.jp

痛いのに走るのがやめられないって、ランキング依存の疑いがありますよね。走ったら悪化させるって分かっていても、やめられないって事ですし。
その辺は自省した方が良いと思います。

あと、

痛いのを我慢して走っても楽しくない

と思うんですよね。
もちろん、ランニングの楽しみの中には、「苦しみを乗り越えた時の充実感」というのは、あると思いますよ。
でも、痛いのを我慢した充実感というのは、違うと思うんですよね。
自分で自分の身体を痛めつけて、それを喜んでいるって事ですから。
「苦しみを乗り越えた充実感」って、その苦しみを、ずっとやっていくと、良い方向に身体が変わっていくのが感じる事ができる訳で、その充実感ってのだと思うんですよね。
痛めつけて身体を悪くして、それで感じる充実感って、楽しいのかなぁって純粋に思います。

リハビリ期間にもやれる事はある

痛くても走ってしまうって人は、休んでいる間に身体がなまってしまって走るのが遅くなるのを恐れている、のかもしれないですね。
まぁ確かに、なまります、走らないと。
でも、痛いのを我慢して走るのも、練習の負荷がかけられないし、痛いのを庇って変な癖が付きがちだし、より悪化して必要な休止期間が長引いてしまう事もあるでしょう。痛いのを我慢して走っても良い事ないです。
それに、休んだら、身体はなまりますけども、故障が治ってランニングを再開したら、ちゃんと戻ります。なので、治してやり直した方が良いと思うんですよね。

あと、ランニングを休まざるをえない時でも、代わりにやれることは色々あるんですよね。始終 走ってる時は、なかなかやれない事を、その時期にじっくりやるのも良いと思うんです。
例えば、ストレッチ。故障箇所と関係ない部分のストレッチなら、やれるはずですよね。ストレッチの重要性は分かっていても、普段はあまりやらなかったりしがちです。こういう時期にじっくりやって関節の可動域を広げておくと、再び走り始めた時に、スピードのポテンシャルが上がっていたりします。
(足の故障なら、上半身、特に肩周りのストレッチを入念にやって肩甲骨周りの可動域が広がれば、腕振りが劇的に変わってスピードを出せるようになるって事も考えられるでしょう。)
例えば、筋トレ。マシンなどを使うと、ピンポイントに安全に鍛える事ができたりします。それで故障と関係ない部分を鍛えておく、というのもできます。
それ以外では、定番としては、水泳や自転車で心肺機能を落とさないようにする、というのも良いですよね。
あと、変わった事に取り組むのも面白いです。私は最初にランニング障害になったリハビリ期間に、前から気になっていた「なんば走り」「2軸走法」の動きを歩きながら練習しました(具体的には「常歩(なみあし)」というのをやっていました)。

www.amazon.co.jp

こんな変な事、故障中でもなきゃ、練習しないですよね。
でも、この時に培った、身体を2軸で使う感覚は、今も走りに生きています。
(なので、この時故障して良かった、と言えます。)
ランニングを休むと不安だ、と思う人は、こういう事を参考に、貴重な休止期間を生かしてみてください。

ランニング障害についての考え方は、他にもあるんですが、まずは「痛いのを我慢して走っちゃダメですよ」という事だけ、書いておこうと思います。